二人で「いただきます」と手を合わせて食べ始める。二谷はきゅうりをつまんで「おいしい」と言い、からあげをつついて「おいしいなあ」と言い、味噌汁を飲んで「うまい」と言った。
十五分ほどで食べ終わる。仕事から帰ってすぐ、一時間近くかけて作ったものが、ものの十五分でなくなってしまう。食事は一日に三回もあって、それを毎日しなくちゃいけないというのは、すごくしんどい。だから二谷は、スーパーやコンビニに行けばそこに作られたものがあるんだから、 わざわざ自分たちで作らなくたっていいんじゃないかと思っている。思っているけど、それを言う代わりに「おいしい」と言っている。ただ毎日生きていくために、体や頭を動かすエネルギーを摂取するための活動に、いちいち「おいしい」と感情を抱かなければならないことに、そしてそれを言葉にして芦川さんに示さなければならないことに、やはり疲れる。
高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』(講談社、2022年)