世界の多様性。それは世界の複雑性に直結している。この複雑性を豊富さととる人もいれば、難解さととる人もいる。豊富さととる人の中には、それを広げようとする人もいれば、自分たちのためだけにとっておこうとする人もいる。難解さととる人の中には、理解しようとする人もいれば、拒絶する人もいる。その対処からして、多様であって、複雑である。複雑さは決して混沌を意味しない。しかし混沌と見誤っても仕方のないほどのスピードで現代の情報社会は流動し、あれもこれも今すぐいっぺんに押し寄せる。それはほとんど、一個人のキャパシティを超えてしまっている。多くの場合、人々はそれに対し、反射的に畏怖こそすれ、あるがまま愛することは難しい。世界は多様である、という真理と同じくらい、世界はいかに一つであるべきか、という問いの出自は古い。その二つはいわば抱き合わせで、特に一神教をその基盤とする西洋的知性において、何度も繰り返し問われてきた。
鈴木結生『ゲーテはすべてを言った』(朝日新聞出版、2025年)