自分はいつか結婚するんだろう、と二谷は思っている。結婚がしたいわけではなくて、結婚したくないと思ったことがないからだった。世の中には一生結婚しないと決めている人もいるけれど、そういうのは確固たる意志がある人だけが決意するものであって、特に何の希望もない自分のような者は、いつか結婚しなければ辻褄が合わない。ならば、喜んでくれる人が多いうちにしてしまうのがいいんだろう、そんなふうに考えていた。
高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』(講談社、2022年)
自分はいつか結婚するんだろう、と二谷は思っている。結婚がしたいわけではなくて、結婚したくないと思ったことがないからだった。世の中には一生結婚しないと決めている人もいるけれど、そういうのは確固たる意志がある人だけが決意するものであって、特に何の希望もない自分のような者は、いつか結婚しなければ辻褄が合わない。ならば、喜んでくれる人が多いうちにしてしまうのがいいんだろう、そんなふうに考えていた。
高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』(講談社、2022年)
よしながふみの『きのう何食べた?』は、同性愛を生きる史朗と賢二の二人暮らしのなかで流れる「いい時間」を描く。彼らは弁護士と美容師としての仕事の時間と、プライベートの時間をうまく縫いながら、いっけんなんでもないが満ち足りた時間を二人で過ごす。しかし、とりわけゲイであることを職場にはカミングアウトしていない史朗には、「結婚しないのか」あるいは「もう五十代なのだからパートナーといっしょにならないのか」といった、マジョリティが生きる時間感覚が押し付けられる。史朗たちはそれをうまく躱しながらも、彼らが生きる時間と、彼らの周りの人々が要求する時間にははっきりとしたずれがあることを感じ取る。「結婚」という制度がある種の〈時計〉として働き、彼らを抑圧する現実が描かれている。
難波優輝『なぜ人は締め切りを守れないのか』(堀之内出版、2025年)