「そう。そういうのが強調されると、その人の持ってる他の色んな面が無視されちゃうでしょう? 人間は、本来は多面的なのに、在日って出自がスティグマ化されると、もう何でもかんでもそれですよ。悪い意味だけじゃなくて、正直僕は、在日の同胞に、俺たち在日だしなって肩を組まれるのも好きじゃないんです。それは、俺たち石川県人だもんな、でも同じですよ。〝加賀乞食〟なんて、自虐ネタをフラれても、そういうところがある気がしないでもないけど、何かにつけて言われるとね。……弁護士だろう、とか、日本人だろう、とか、何でもそうですよ。アイデンティティを一つの何かに括りつけられて、そこを他人に握り締められるってのは、堪らないですよ。」
平野啓一郎『ある男』(文藝春秋、2018年)